実録！SS

「これって辛子か？
ロニが怪訝に箸で指し示したそれ…赤い細身のピーマンのようなそれは確かに唐辛子だった。
「おいおい、丸々一本入ってるのかよ」
そういわれても自分は食べたことがないのでどんなものか良く知らない。
最も敢えて食べようとも思いもしないが。
ジューダスが何気に眺めているとその隣でひょいと取り上げた者がいた。
シンだ。
彼女は何事もないようにひょいとそれを口に運ぶ。
「…俺はお前の人間性を今まで誤解してた」
それほどまでの味なのか。
ロニの愕然とした視線の先で黙々と口を動かしているシン。
やがて口を開いた。
「そうでもないよ？」
けろりと言う。
「どれどれ？」
続いてハロルド。
「ホント、大したことないわ」
「マジかよ！！どれ…」
こわごわ口に運ぶロニ。
それでも口にしたのは半分だけだった。
その行動を見るといかにシンの行動が大胆であったかがわかる。
数瞬後。
「むがぁ！！騙されたーーーー！！！！」
派手に椅子を蹴って水を求めに行くロニ。
相当辛かったらしい。
シンの方を見る。
彼女は少しだけ顔をしかめて一言。
「今頃来た」
「これくらい大したことないっしょ」
ハロルドは経験者なのかしれっとしたものだ。
シンはと言えば…
「初めて食べました。辛いね、これ」
「当たり前だろう」
初めて食べたのに、計らずしもロニを道連れにしたことを見事と思いつつ。




＊　＊　＊
今回の出張に置いての実話。
二度も「Sさんの人間性を誤解してました」と言われました。
どんな人間性だと思ってたんだよ。

ノスタルジー

今日も雨が降っていた。
しとしとと降る雨は梅雨時、独自の静けさをもたらす。
「あ」
傘をさすほどでもなく、店の軒下を選びながら歩いていたシンはふいに立ち止まり沈黙を破る。
「アスファルトの匂い」
言われれば微かになんともいえない臭いがする。
それは、舗装された道路が濡れそぼる匂いだった。
「私、好きだな。この匂い」
そう言ってシンはどこかなつかしそうに瞳を細めた。
「そうか」
確かにどこか郷愁を誘う。
それももうしばらくすれば雨に洗い流されてすっかり消えてしまうのだろう。
刹那ではあるが、記憶に跡を残す香りだった。



＊　＊　＊

しとしとどころではなく結構降ってます。
アスファルトの匂いなんてしないくらいに(笑）
あれはペトリコールと呼ばれる物質の匂いらしいですね。
インドでは，この匂いの香水もあるとのことです。
埃の匂いじゃないですよ。
さて、アスファルトなんて代物がTODの世界にあるのだろうか、とも思ったのですが、
ペトリコールはギリシア語で「石のエッセンス」の意味があることから石畳でも発生するってことにしておきましょう(笑）

紫陽花

「アジサイが咲いてきたね」
シンが言う。
「お前は花の変化に敏感だな」
リオンが答えた。
「…というか今までが無頓着だった。今年の目標はいつ何が咲いたかメモること」
花カレンダーでも作るつもりだろうか。
確かにヒューゴ邸の庭は観察してことたりるほど花が植えられている。
前回こんな会話をしたのは水仙だった。
花ことばは「うぬぼれ」。おかげで記憶にも鮮明だ。
「調べてみたらどうだ」
「そうする」
淡白なやり取りで会話は終わったかに思えた。
リオンは読書を再開し、シンは外を眺めている。
外は雨。
アジサイになんて合う天気だろうか。
雨音の響く部屋の空気は静かで穏やかだった。
「ちなみに──」
シンは振り返ってふっと意味深そうに笑った。
「花ことばは「無情」」
…お前、わざとだろ。
「あなたは冷たい、とか移り気なんてのもある」
僕の記憶回路がまた新たに結ばれた日だった。


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近所に白い紫陽花が咲く場所があります。
白い品種、ではなくほんのり水色の部分もあり本当に「白」なんだな、と思いながら毎年眺めてます。
紫陽花の花ことばにはよさそうなものもありますよ～

シャルティエはDC版です。

まさかの本日作品投下二本目。
シャルティエ（DC版）とシンの話です。



＊　＊　＊

水仙

花咲き誇る季節…春。
その訪れは庭の花木を見て入れは自ずとわかった。
最初は梅、次に桜。次は何が咲くだろう。
この屋敷には十年以上住まっているのにそんなこともわからない。
花の移ろいを意識をしだしたのはごく最近のことだ。
「リオン、庭のチューリップが咲いたよ。チューリップって白から咲くんだね」
その原因が窓から外を眺めて微かに笑った。